次に、発掘現場の作業では欠かすことのできない日本人付の人夫たち。 私が現場に初めて来たときは、ラマダーン、フセイン、マフムードの3人だった。 ラマダーンは頭が良くって仕事も一番できた。
発掘ではトランジットという機械を使うんですが、 その機械を設置するのが難しくて私なんか5分以上かかってしまう。でもラマダーンは日本人顔負けってくらい素早く、しかも正確に立ててしまうのです。 そんな彼は21、2歳で結婚間近。この仕事が終わったらすぐ結婚式だとうれしそうに話してました。しかも、憎らしいことに婚約者に電話をかけにしょっちゅう町の電話局に行っていたのです。あと、 ラマダーンはエジプト人にしてはめずらしく、もの静かでまじめ。 特に仕事熱心。日本人付に最適。仕事も正確なので、 私はラマダーン先生と言ってあがめていました。
フセインは一言で言うと、「アホ」。でもすっごくおもしろくていいヤツ。 いっつもヘラヘラしてて、作業中も遺跡にひじとかついたりして、 やる気あんのか！って感じ。こんなヘラヘラしててなんで日本人付なのか不明。 でも言葉があんまり通じないのに、話しててすごくおもしろいから不思議。 そんなフセインはトランシーバーを持つと、必ず 「キコエマスカー」と日本語で確認する。 そのイントネーションと声が何ともいえずあやしくて笑える。 フセインはフケてるけど、私とタメで19歳。 オルガーダとかいう町（ルクソールの近く？）のお土産屋さんで 働いてるらしい。「いらっしゃいませ」と「ようこそ」という 日本語を教えてあげたけど、「いらっしゃいませ」の”しゃい”が アラビア語の”シャイ”（お茶）と同じだからといって爆笑してた。 やっぱりへんなヤツ。でもいいキャラクターしてたなあ。 彼が一番おもしろかったかも。
ラマダーンとフセインはいとこで、泊まってる部屋も同じ。 彼らとは何回か一緒に夜町に行きました。彼らと行くといろいろと安心。 町では道もよくわからないし、言葉も通じないし。ある夜カフェに行ったとき、 ドミノというエジプトではポピュラーなゲームを教えてもらってやってみた。 日本人がマージャンをするみたいに、男たちが夜な夜な集ってきてやる遊び。 そこで驚いたのがフセインの勝負強さ。ゲームとなると頭が冴えるのか、 めちゃめちゃ強い。一方、頭のいいはずのラマダーンは弱い。 おそるべし、フセイン。
こっちをにらんでいるのがフセイン
もうひとり忘れてはならないのは、マフムード。私はほとんど一緒には働いてないけど、とりあえず、美形。 王子様って感じ。しかし、彼は仲良くなる前に、 左遷されてしまったのです。聞いたところによると、マフムードはけっこう ガンコな性格の持ち主で、隊長にちょっとしたことを注意されたときに、 なんと口答えしてしまったらしい。隊長も気性の激しい人だから、 あっさり彼を土運びにしてしまいました。かわいそうに。でも、 たまに目が合うとすごくいい笑顔でにっこりしてくれて、 私の中ではかなり好感度高かったです。
その後マフムード王子の変わりにサーベルとやらが日本人付に昇格してきました。 最初は無口で、ぶっきらぼうな感じだった。 チョビヒゲで24歳、妻一人、子供一人。でも日本語の数字を覚えようと 一生懸命だったから私も教えたりしてた。そういえばこんなこともありました。 私は現場でよく目に砂がはいるから、必ず目薬を携帯していた。 私が目薬をさしているのをめずらしそうに見ていたサーベルは、 自分もやってみたいから貸してくれと言ってきた。 結構スースーして刺激のあるやつだったので、 片目にさしたとたんに悲鳴をあげていてウケた。 でもしばらくすると気持ち良くなってきたらしく、 もう片方の目にもやりたいと言ってきた。 ところが彼が目薬をさすときに容器の先をおもいっきり目の中に入れるもんだから、 私は「げっ」と思ってその目薬をまるごと彼にあげることにした。 思いがけないプレゼントにサーベルも喜んでいるようだった。よかったですね。
そんなサーベルも仕事を覚えていくにつれ、どんどん態度が大きくなってきた。 遺物を取り上げて1つ1つビニール袋に入れる際、 その遺物を分類して台帳に記録するのだけれど（例えば、道具類、装身具類など）、 こっちが遺物を見せろと言ってるのに、 勝手に「これは道具類だ」とか判断して遺物をあまり見せずにどんどんビニールに しまっていってしまう。むかついたので注意すると 「チッ」とかいって舌打ちするから、 私はその場にいた3年生の人と一緒に「感じ悪ーーっ！！」と腹を立てていた。 それ以来、私はサーベルがあまり好きではなくなりました。 そんなサーベルも理由はわからないけれど、いつのまにかいなくなりました。 国に帰ったらしい。そんなわけで結局最後のほうは、 日本人付人夫はラマダーン、フセインの二人だけでした。マフムード、 復帰ならず。。。
